契約結婚の終わらせかた




「聞いて、碧ちゃん!」


バイト先のあくあくりすたるのドアを開いたとたん、美帆さんが突進してぎゅむ! と抱きしめられた。


「とうとう雅司が展覧会で入賞してね……それでそれで! 結婚、決まっちゃいましたあ」


きゃっ! と頬を染めながら体をくねらせる美帆さん。


「そ、そうでしたか。おめでとうございます」

「ありがとう。せっかくだから一緒に暮らすことにしたよ。俺も不規則な生活だから、なかなか会えないし」


雅司さんの説明に美帆さんが付け加える。


「雅司は名古屋にオフィス兼住居を持ってるの。だから、急で申し訳ないけど……ここは閉めることにしたわ」

「そうですか……寂しいですが仕方ないですね」


結婚して初めて出来た、お姉さんとも言える友達。遠くに引っ越すのは寂しいけど、おめでたい門出。ちゃんとお祝いしなきゃね。


「それで、結婚式は夏にするの。もちろん碧ちゃんも来てくれるわよね?」

「ぜひ、参加させてください」

「出来たら、伊織さんも一緒にね?」


ウインクしてきた美帆さんには、あれこれ相談してきたから事情は知られてる。私は苦笑いをして曖昧に答えておいた。


「伊織さんがいきたければ、ですけどね」


新しい街で新しい生活を始める人たちが幸せでありますように。帰りの青空にそう祈った。