「碧お姉ちゃん、大変だ!」
ちゃぶ台でお昼寝をしていた心愛ちゃんが、突然ガバッと飛び起きて叫ぶ。
「え、なに!?」
心愛ちゃんの必死の顔に、なにか起きたかと焦る。そして、ドキドキと緊張しながら次の言葉を待っていると。心愛ちゃんの悲痛な声が。
「大変じゃん! バレンタインまであと1週間切ってるよ。まだなんも準備してないのに~」
がっくり、と身体中から力が抜けた……。
「今年は友チョコより力を入れたいのがあるんだよね……」
心愛ちゃんはほんのりと頬を赤らめながら、店の前で遊ぶ男の子達を見る。
その視線の先には当然、彼女の意中の男の子もいる訳で。
「あ、堅くんにあげたいんだ」
「あ、碧お姉ちゃん! なに言ってるの。誰があんな単純バカに……」
心愛ちゃんはそう強気に話しながらも、だんだんと消えそうな声になっていく。そして、ポツリと呟いた。
「堅……春から中学でしょ。自転車で30分も離れた学校だし……もうおはる屋来れないかもしれないもん」
じわ、と心愛ちゃんの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「中学だと大人っぽいひと多いから……あたしみたいな子ども……相手にもしてくれないよね、きっと」
今までどんな時も明るくて、みんなを励ましてきた心愛ちゃんが涙を流した。それだけに彼女の想いがどれだけ強いのかが解って、胸を打たれる。
以前の私なら、当たり障りのない励ましだけで終わっただろう。
だけど、今。私は恋を知った。その幸せも辛さも、悲しみも喜びも知った。
だから、私は。
ただひとつの真実を彼女に告げる。
「……伝えようよ、心愛ちゃん。言いたいことは言葉にしなきゃちゃんと伝わらないよ」



