「だって……おばあちゃん、あの借金はもともと私のせいで」
「お黙りよ。あれはわしが納得してわしの意思で判子を押したんだ。あんたにゃこれっぽっちも責任ないのに、勝手なことをしてるんじゃないよ」
だから、とおばあちゃんは私に言う。
「ここの立ち退き料で多少なりとも金は入る。あのバカ婿と本当に別れたいなら、その金を使おうじゃないか。だが、本当にあんたはあの男と別れたいのかい? 後悔をしないと言い切れるのかい?」
「……おばあちゃん……」
おばあちゃんは、本当に私のことを考えていてくれたんだ。その事実でじぃんと胸が熱くなり、思わず本音がこぼれそうになる。
“いやだ――”と。
“本当は、別れたくない!”
“いつまでも伊織さんのそばにいたい”
“彼と本当の家族になりたい”
――そんな浅ましい、身の程知らずの言葉が。
だけど、伊織さんの幸せを思えば私は別れなきゃいけない。だのに、本音は別れたくない。そのうえおばあちゃんに嘘はつきたくない。
ぐるぐると廻る思考で何も言えないでいると、唐突に葵和子さんが提案をしてきた。
「碧さん、綺麗になりませんか?」
「え?」
「これから春、色づく季節です。女性だって同じですわ。わたくしに任せてくださいな」
にっこり笑った葵和子さんは、どこか悪戯っ子のような輝きの目をしていた。



