「そのバカ婿は、相変わらず肝心な嫁を放ってるがね」
「まあ……伊織さんが?」
ふん! と鼻を鳴らすおばあちゃんが、とんでもないことを言い出したから。私は慌てておばあちゃんの肩を掴む。
「おばあちゃん! よけいなことは言わないで」
「何が余計だい? あんたもバカ婿も、ろくに言葉を交わさず逃げ回ってるだけだろ。わしがあんたらの尻を叩かなきゃ、誰が叩くんだい」
「そんなこと言われても……私は……伊織さんのために」
うつむきながらゴニョゴニョ言うと、おばあちゃんはダン! と湯飲みをちゃぶ台に置いた。
「まったく、ごちゃごちゃとうるさいよ! あんたがそうだから、わしは心配で安心してあの世に逝けないんだ」
「おばあちゃん! 縁起でもないことを言わないでよ」
最近おばあちゃんが倒れた時のことを思えば、体が震えるのに。気が強いおばあちゃんはふんと鼻を鳴らした。
「わしだっていつまでも若いあんたを縛りつけたかないんだ。もう潮時さね。わしの体も、店も。わしはあんたの世話になるつもりはないよ。年金で十分暮らせるし体も動く。だから、あんたは好きにしな」
おばあちゃんはいつもの調子で、思いもよらない言葉を私にくれた。
「そ、そんなことない! 私は縛られてなんて……」
「あるだろ。おまえが借金のためにバカ婿と結婚したことくらい、わしが知らないとでもお思いかい!?」
「……!」
おばあちゃんにだけは知られたく無かったのに。いつの間に知られていたというショックで、呆然とした。



