そんなある日、意外なお客さまがおはる屋を訪れた。
「ごめんくださいな」
「あ、は~い!」
和室でおばあちゃんと一緒に雑炊を食べてたところで、慌てて中身を飲み込みながらお店へ急いだ。
すると店先に立っていたのは、薄紫色の紬に薄茶色の羽織を重ねた葵和子さんで。彼女は風呂敷包みを抱えてた。
「あ、葵和子さん。お久しぶりです。今日はどうなさったんですか?」
「こちらの『おはる屋』が無くなるとお聞きして……居ても立ってもいられなくなったんです。碧さんにお話もありましたし、厚かましくもお邪魔させていただきました」
「いえ、そんな。わざわざありがとうございます」
丁寧に礼をしてきた葵和子さんに、私はどうしたものかと焦っておばあちゃんを頼ろうとした。
「おばあちゃん、葵和子さんがいらっしゃったから、和室にあげていいよね?」
「葵和子がかい? ああ、好きにしな」
何十年ぶりに会うというのに、おばあちゃんは何の感慨もなくいつもの調子で答えてきた。
「祖母の許可がありましたから、よろしければこちらへどうぞ」
「はい、お邪魔いたします」
葵和子さんは丁寧な一礼をしてから、流れるような動作で框を上がる。そして脱いだ草履を丁寧に揃えると、おばあちゃんを前に挨拶をする。
「静子さん、本当にご無沙汰しておりました」
「ああ、あんたも元気そうで何よりだ」
淡々とした再会だけど、たぶん2人とも盛大に涙を流すような性質じゃない。だから、こんなものかもしれないな。



