「だからといって、伊織さんの同意無しに勝手な行動をしたの?ずいぶん身勝手ではない?」
あずささんは明らかに怒り、私の行動を非難してきた。
「それを言われると痛いですけど……伊織さんは私がいなくても大丈夫なはずです。
だって……私はそう大したことはできませんし……伊織さんだって……私が好きだから結婚した訳ではないので。
もっと彼に利点がある相手とか、本当に好きなひとと結婚するには私がいては邪魔なだけじゃないですか」
「それ、伊織さんから直接聞いた言葉なの? なら仕方ないけど、あなたの勝手な思い込みで判断してない?」
「……」
確かに、あずささんの言う通りだ。私は伊織さんに確認もせず逃げ出したんだ。
きっと、また拒まれ傷つくのが怖かったから。臆病風に吹かれた小心者なだけ。
俯いた私に、あずささんは大きなため息をつく。
「……もっと骨があると思ってた。だけど、見損なったわ」
スッと彼女は立ち上がると、 ビジネスバッグとコートを手に持つ。
「だけど、それでも。私はあなたが一番のライバルと思ってる」
「……?」
何が言いたいのかわからなくて顔を上げると、あずささんは私をジッと見下ろしてきた。
「……今、私の実家の中村家は伊織さんと私の縁談を纏めようとしてる。私は、その機会(チャンス)を逃すつもりはこれっぽっちもないわ」
次第に挑みかかるような強気な光を宿す、あずささんの焦げ茶色の瞳。強い芯を感じさせるそれは、今まで数多の修羅場を潜り抜けてきた自信をみなぎらせていた。
「碧さん、私は本気で伊織さんの心を奪いにいく。悔しかったら全力でかかってきなさい」



