別居して数日経ったころ、珍しいお客さまがおはる屋を訪れた。
「へえ、初めて来たけど懐かしい匂いがする。なんだか子ども時代を思い出すわね」
黒いツーピースを着たあずささんは、今日もメイクも髪も完璧な美人さん。キャリアウーマンとして、貫禄すら感じられる。
「急にごめんなさいね。営業の途中なのだけど、どうしても話したいことがあって」
和室の畳の上で正座をしながら湯飲みを持つあずささんは、正統派の和風美人。大和撫子と言っても差し支えない。
「急にどうしたんですか?」
「とりあえず、一番はこのお店のことね」
「え?」
あずささんはぐるりと店内を回し見ると、無くなるのは惜しいわねと呟く。
まただ。
以前訪れた正男というひとも、ここが無くなると言ってた。
どういうことか問い詰めようとしても、おばあちゃんは気にするんじゃないよ! とにべもなくて。訊くに訊けなかったんだ。
「どういうことですか? この“おはる屋”がなくなるって」
「簡単な話よ。ここは借地で、地主が売却を決めたから……だから、無くなるの」
「えっ!?」
初めて聞く話は衝撃的で、頭で整理するまで時間が掛かった。
借地というのも初めて聞いたけど、既に売却先まで決まってたなんて。
借地なら、借りてる以上は返さないといけない。契約で借りてる立場の方が弱い。
地主が売ると決めたなら……
「で、でもおばあちゃんが住んでいるんですよ? それなのに売っちゃったんですか!?」



