契約結婚の終わらせかた




「わしは怖かった……葵和子に会って拒まれるのが。50を過ぎて、なんと幼かったか。だが……生まれて初めての恋に戸惑うばかりで。彼女を檻に入れて安心してただけの愚か者だ」


正蔵さんは両手で顔を覆うと、肩を震わせる。


「瑞々しい少女と言える年の葵和子が、私を受け入れるはずがないと思い込んでいた。 思えば愚かしいが、当時は必死だった。彼女の気を引くためにマンションを買い与えたり、着物を贈って。それでも顔を合わせるのが怖くて、肝心のワシは訪ねなかったのだ」


だから周りがよく見えていなかった、と後悔を滲ませた震える声で正蔵さんは話す。


「当時は桂グループの危機に必死で、葵和子を顧みる余裕がなかったこともある。 だが……何度も思った。葵和子にしっかりした後ろ楯があれば、あれほど葵和子も伊織も不幸にならなかった……と」


だから、ともう一度正蔵さんは私に頭を下げた。


「桂家はくせ者揃いで、なまじっかな身分と決意では潰されかねないのだ。だから、中村家令嬢であるあずささんほどしっかりした後ろ楯と身分が無ければ、桂の連中に簡単に喰われてしまいかねない。
仮にあなたが桂家に入れば……不幸になるのが見える。
だから、お願いだ。伊織の幸せを願うならば別れてくれ」