そして、初詣の帰り。伊織さんが寄ったのはモダンな木造の喫茶店。
(ここは……葵和子さんの)
「感じがいいですね。よ、よく来るんですか?」
「学生時代から、一人になりたい時にはよく来た」
「そうですか……」
もしかすると、伊織さんは葵和子さんがここを利用することを知らずに常連になったのかな?
「ここの紅茶やコーヒーは特に気に入ってるからな……コロンビアをホットで」
「あ……」
驚いて声を上げれば、何だ? と伊織さんは怪訝そうな顔をした。
「な……なんでもありません。メニューがたくさんあって迷っただけです」
急いでメニュー表を広げると、伊織さんから顔が見えないように隠す。
だって……口元が緩むのを押さえられなくて。
夏、葵和子さんと初めてお会いした時。この喫茶店で彼女はコロンビアのアイスコーヒーを注文した。
そして、今。息子の伊織さんはコロンビアのホットコーヒーをオーダーしたんだ。
好きなものが、こんなにも似てる。
やっぱり親子なんだなあって微笑ましくなって、口元が自然に緩んでしまう。
私は冷たいものが飲みたくてオレンジジュースを頼んだ。
しばらく何も言わずにただお茶を飲むだけ。お洒落なジャズが流れて静寂に浸れる大人の空間。
なんだか、ゆったりと流れる時間に身を浸してるみたい。目を閉じれば、懐かしい日々が思い浮かぶ。
そんな静寂を破ったのは、伊織さんだった。
「これを」
伊織さんが屋久杉のテーブルの上で渡してきたのは、薄紅色の和紙の封筒だった。
「あの女に渡しておけ」
「あ、はい」
宛先は……桂 葵和子様へ
着実に、伊織さんは前に進もうとしてた。



