(来ない……)
駅前通りの液晶ディスプレイに表示された時間は、19時48分。
(ううん、きっと仕事が忙しいだけ。クリスマスは商戦時期だから。きっと残業でどうしようもないんだ)
念のためスマホをチェックしたけど、着信やメールはない。さっきまで星が輝いてた空は曇ってきて、鈍色の雲に覆われてる。
チカチカと瞬くイルミネーションを眺めながら待つうちに8時半を過ぎる。一度だけ連絡してみようと電話を鳴らすけど、電源が落ちてるのかコール音もなく繋がらない。
(まさか……伊織さんになにかあったの? 事故とか)
急に心配になった私は、迷惑かと思ったけど葛西さんに連絡してみた。
『あれ。伊織なら定時で帰ったけど。まだ帰って来てないの?』
葛西さんからはそんな言葉を聞いて。ホッとしながらも、どこかショックを受けていた。
「え、いえ。まだなにか用事があるなら遅くなるかなって確認しただけです。忙しいのにごめんなさい」
『そう? そういえば、碧ちゃん……くるみから聞いたんだけど。最近なにかあった?』
「えっ?」
『くるみが、君の様子がおかしいって言ってたんだよ。なにか困ったことがあった?』
葛西さんの唐突な質問に動揺して、どう答えて良いものかわからない。
だけど。“出来たら助けて欲しい”
私のなかの浅ましい自分が。葛西さんに全てを話して助けを欲しがってる。
でも……
これは、私の問題。
葛西さんに助けを求めたところで、根本的な解決にならない。むしろ事態をややこしくするだけだ。
「いいえ……なんでもありません。ありがとうございます」
私はそれだけ告げると、スマホをマナーモードにして着信に見てみぬふりをする。
これ以上、幸せな他人を巻き込む訳にはいかなかった。



