契約結婚の終わらせかた




「碧ちゃん、どうかした?」


くるみさんに声をかけられて、ハッと我に返る。

いけない、いけない。今は着付け教室の最中なんだ。


「あ、いえ……ちょっと寝不足で……ごめんなさい」


へへ、と下手な誤魔化し笑いをすると、くるみさんはおっとりと笑う。


「そうでしょうね~伊織さんが頑張って夜も眠らせてくれないんでしょう? 碧ちゃんはカワイイもの。伊織さんの気持ちがわかるわ~」


くるみさんに着物ごとギュッと抱きしめられ、頬擦りまでされて息苦しいです。


「ぐるみざん……い、いぎが……」

「あらあ~ごめんなさい。でも、伊織さんは毎日早く帰ってるみたいだから、今が一番いちゃいちゃじゃない? うらやましいわ~」


ふふふ、と笑うくるみさんだけど……


「伊織さん……早く帰ってるんですか?」


聞き捨てならない情報に唖然とした。くるみさんはうん、と頷く。


「そうよ~近ごろ定時で帰ってるんだって。出張も断ってるとか。仕事を最大限に効率化して、やる気があって結構って良介さんが喜んでたわ~うふふ、よほど碧ちゃんがかわいいのね……碧ちゃん?」


くるみさんからの思いがけない話に、私は胸がギュッと締め付けられた。


……伊織さんは毎晩遅い。以前より遅くて泊まりも珍しくないのに……。


私が……要らなくなってきたんだろうか。





“伊織さんとお別れください。こちらには切り札もございますので。早めの決断が後々お互いの為になります。ご安心ください。あなたとの汚点はこちらの力でなかったことにできますから”


先日現れた伊織さん父の秘書の声が、私の中でぐるぐると反響する。


汚点……私との結婚が汚点。葵和子さんは否定してたけれど。桂家にとって私はそれだけでしかないんだ。


なんだか、泣きたくても涙が出なかった。