契約結婚の終わらせかた




家政婦を勤めた人間は伊織さんが預けられるようになった3つの頃から、ゆっくりゆっくりと食事に薬物を混ぜ込んでいた。


長きに渡る薬物中毒――どんなに美味しそうなご飯やお菓子やジュースにも、手作りの品には必ず毒が仕込んであった。
市販品の食べ物でも必ず薬物を混入して与えられたのだ。


家政婦の7年に渡る犯罪はそれだけじゃない。


最初は、軽いものだった。


伊織さんが言うことを聞かなければ、頬や手をつねる程度だった。


けれど次第にエスカレートし、頭を叩いたり服に隠れ見えない部分をつねったり。逆らえないと知ると、暴力が伴うようになった。


お腹を蹴られたり、頭を殴られるのもしょっちゅうで。見えない部分には常に傷や痣が絶えることがない。


そして、次第に増長し自分がやるべき仕事を伊織さんにやらせるようになった。手抜きをすれば激しい折檻が待っている。必死に働く伊織さんの傍らで、家政婦は男や友達を呼び、ばか騒ぎ。あろうことか伊織さんの前で抱きあうことすらあって。

男が来たと喋った伊織さんに氷水を浴びせ、裸にした上で雪の積もる真冬のベランダに立たせたりと信じられないことを振るう。


そして、常に伊織さんに言葉の暴力を浴びせた。おまえの母はおまえを捨てた。金の為に男を捕まえたアバズレだ。おまえは何の価値もない。あたしが生かして使ってやってんだ感謝しろ。誰もおまえを必要としていない。誰もおまえが生まれて喜んでいない。誰もおまえを愛さない。


呪詛のような言葉に精神を、薬物と暴力と過酷な労働に身心共にボロボロになった伊織さんは……。


十の頃に一時心肺停止状態になるほど、追い詰められてしまったのだ。


そして……家政婦の悪事は暴かれたけれど。


伊織さんは、母である葵和子さんを憎むようになり。二度と目を合わせなくなった。


病院のお粥すら受け付けなくなったのも、この頃からだったという。