契約結婚の終わらせかた




そこで、生まれて初めて葵和子さんは“子どもらしい楽しみ”を味わった。


子ども達の何気ない日常は、葵和子さんにとっての非日常。そこにいるだけで、何もかも忘れられ一人の子どもに戻れる。

そして、おばあちゃんには本当のお母さんのようなぬくもりを与えてもらえた。


たびたび振る舞われたプリン。その味が忘れられなくて、一度だけこっそり教えてもらった。


“あんたが子どもに作ってあげるんだよ”と。 嫁ぐ前日に泣き疲れた葵和子さんに、せめてもの餞別だと。おばあちゃんはレシピのメモをそっと手に握らせる。


葵和子さんは高校を卒業してすぐ、桂家へ嫁入りし後妻として嫁いだ。


けれど、桂家には既に結婚した嫡男夫妻が共に住んでおり、葵和子さんより年上の長女夫妻も離れに住まいを構えている。


“家名だけの何の取り柄もない小娘”

“金で買われた美人なだけの女”


後妻とはいえスタートから葵和子さんの立場は弱く、何かにつけて蔑まれ、蔑ろにされ続けた。


それでもまだ夫が愛してくれたり、優しくしてくれるなら救いもあっただろう。けれど、正蔵さんはろくに葵和子さんのもとを訪れず、妾や愛人ばかりが幅をきかせ、女主人のように振る舞う。


誰も味方がいない中で、葵和子さんが孤立感を深めていたころ。実家の和泉家の更なる借金が発覚。桂家に無心に来るが、さすがに正蔵さんもこれ以上は肩代わりできないと拒否。


そのため、葵和子さんは得意の和裁で実家の借金を返すために働き出した。