葵和子さんは紅茶を飲むと、ふうっと息を吐く。そして、決意を固めた瞳で私を見てきた。
「あなたには知っていただきたいと考えていましたの。全て……お話します」
そして、葵和子さんと伊織さんが別たれてしまった背景が彼女の口から語られた。
もともと、葵和子さんの実家は昔から続くかなりの名家で。家格もかなりのものだった。
けれど戦争を境に没落してしまい、事実上名前だけの存在に成り果てた。
それでも、家族はそれまでの生活を捨てずに借金をしてまで同じ生活を続けようとする。
葵和子さんのお母様……ははるばるアメリカからやって来たけれど、そんな生活にただ一人真面目に生きようとした。彼女は家族のために必死に働き、葵和子さんを生んでも泣く我が子を傍らに置いて働き続ける。
それでも夫や義理の両親は彼女に依存するだけで、悪いだとか感謝をすることもなく。贅沢三昧で同じ暮らしを維持することに腐心するのみ。
やがて、葵和子さんが八つの頃に母――ナンシーさんは過労のために30歳の若さで病死。それでも現実を認識しない親族は、同じ生活スタイルを崩そうとせず放蕩の限りを尽くす。
一般人と変わらないどころかわずかな収入なのに、お金持ちと同じ生活をすればやがて破綻するのは当然で。
借金が重なり首が回らなくなった親族に、もう貸してくれるところなどありはしない。やがてヤミ金にまで手を出した彼らの借金の額は膨らむばかりで減ることはなく。
借金に加えヤミ金の取り立てが激しく、住む場所まで取り上げられ無一文で追い出されそうになった時。
借金の肩代わりをすると申し出たのが、桂 正蔵(かつら しょうぞう)。
後に葵和子さんを妻とする事業家だった。



