伊織さんは果たしてくれたんだ。パーティーの時に私とした、“葵和子さんに手紙を書いてください”という約束を。
お土産屋さんで熱心にレターセットを見てたのは……このためだったんだ。
葵和子さんにつられるように、私の瞳からもぽろりと涙がこぼれる。自分の勝手な思い込みも恥ずかしいけど、それよりも。伊織さんがお母様と歩み寄る姿勢を示してくれた。
今の今まであれだけ激しく拒んできたのに……彼が変わろうとしてる。その事実に胸が揺さぶられて。嗚咽を堪えきれなかった。
「ありがとう、碧さん。そんなに伊織を想ってくれて……あの子も幸福者だわ。あなたのような人がいてくださって……わたくしも嬉しくて」
テーブルの上に置いた手に、葵和子さんの手が重なる。白くすべらか……と思われたけど。
彼女の手は、深窓のお嬢様育ちでそれなりの家に嫁いだにしては、肌が荒れて手のひらの皮も厚い。
これは……働くひとの手だ。
私がジッと観察するように眺めていたのに気付いたのか、葵和子さんは私の手のひらをキュッと握りしめてきた。
「気付きましたよね。わたくしの手……」
「……はい。でも……不躾を承知でお訊きします。一体なぜですか? おばあちゃんから聞きました。あなたが借金のためにずいぶん年上の男性に後妻として嫁いだと。
それなりに裕福な家に嫁いで……どうして働く必要が」
本来ならこうして突っ込むのは、私が出来ることじゃない。他人の事情にそこまで知りたがるのは失礼過ぎるし、必要もないことなのに。
でも、敢えて私は知りたかった。
彼女のその事情が、伊織さんが歪む原因になったような気がしたから。



