あくあくりすたるの店番が終わる直前、意外な人から連絡が入った。
「忙しいなか、急に連絡してごめんなさいね」
「いえ……」
以前にも来た憶えのある喫茶店で待ち合わせをしたのは、伊織さんの実母である葵和子さん。彼女とは着物を返して以来だから、1ヶ月ぶりになる。
今日も枯葉色の色無地を鈍色の袋帯と組み合わせてすっきりと着こなしてる。
「どうしても碧さんに直接お礼を言いたくて……」
葵和子さんは手提げ鞄を開くと、木製のテーブルに何かを載せる。
(これ……確か)
見覚えのある紅葉色の和紙の封筒。それが何なのかは彼女が知らせてくれた。
「……伊織が、初めてわたくしに手紙をくれたのです」
「えっ!?」
あまりの驚きに、跳ねるように顔を上げて葵和子さんを見た。彼女はハンカチでそっと目元を押さえる。
「おそらく、伊織もまだわたくしを憎んでいるでしょう。内容もわたくしへの恨み辛みでしたから。でも……それでも、わたくしは嬉しかった。我が子がちゃんとわたくしに、本心を明かしてくれた。どんなに憎まれていても、彼なりの言葉でわたくしと向き合ってくれる。こんなに嬉しいことはありません」
葵和子さんの溢れる涙はハンカチでは間に合わず、ぽろりと頬を流れ落ちる。でも……とても、綺麗だなって思った。
「あの子も、碧さんと会って変われた……と書いてました。本当に、あなたのお陰ですわ。ありがとう……碧さん」
「伊織さんが……私を?」
葵和子さんの発言は私の鼓動を乱すには十分で、堪らなくなって胸を押さえる。
伊織さんが……お母様への手紙で私を評価してくれた?
……なんで……そんな嬉しいことを。また、忘れられなくなるだけなのに。



