ところが、起き出した伊織さんが意外なことを言い出した。
「25日、予定はあるのか?」
「え? いえ……今のところ、おはる屋以外にはありませんけど」
急にどうしたんだろう? とダークネイビーのスーツに着替えた伊織さんを見る。彼はやたらと袖口に触ってるから、時間を気にしてるんだと思ってた。
「急がないと、葛西さんが痺れを切らして行っちゃいますよ?」
葛西さんは秘書なのに、迎えに来たはずの伊織さんを平気で放り投げていく。だから急かそうと思ったのに、伊織さんはゴホンと咳払いをしてる。
ビジネスバッグを渡そうとした瞬間、伊織さんは私をまっすぐに見据えてきた。
「……25日、夜の6時からあけておけ」
「え」
「いいな、命令だ」
彼が何を言ったか解らずにポカンとしている間に、ビジネスバッグを持った伊織さんは部屋を出てく。
「12月25日……伊織さんは……気付いてるの? ううん、まさか……」
そんなこと、ないよね?
だって、婚姻届だって不備のチェックをしたのが私だし。彼がわざわざ知ろうなんてするはずない。
でも、それでも。
もしも……もしも伊織さんが知っていて誘ってくれたのだとしたら。
馬鹿な私は、万に一つの可能性もないのに。嬉しく思ってしまってる。
思い出を積み重ねてしまえば、別れが辛くなるだけなのに。



