――え?
伊織さんは、まるで親の敵のように私を睨み付ける。その青い瞳には、はっきりした憎悪と――それから。
捨てられた子猫のような、傷つきさ迷う感情が現れていた。
「……いつも、いつも。放って遊び歩いて……さぞかし楽しいだろう? 子どもなんざ、あんたには枷にしかならない……愛してもいない男の子どもなんて、いらなかったんだろう!」
「伊織さん……」
「名前を、呼ぶな!」
手近なもの――水差しを手に持つと、彼は私に向けて投げつけてきた。
ガチャン、と水差しが壁に当たり、畳の上に水がこぼれる。
「僕が、どんなに呼んでも……あんたは来なかった。言いなりにならなかった、と家政婦に薬を混ぜた食事を強制され……体が弱っても……気づきもしなかったろう!
そうだよな、あんたは僕の顔を見るのも嫌だったんだ。本音はあの時死んで欲しかったんだろう! 知ってんだぞ。あんたが“昔に戻りたい。子どもなんて生みたくなかった”と言ったことを!!」
バン! と畳を叩いたのは伊織さんの拳。彼はもしかしたら。
私を、葵和子さんと勘違いしてるの?
自分を僕と呼ぶ伊織さんを、私は知らない。幼いながらに胸をかきむしるような叫びは、彼の殻を破り本心を剥き出しにしていった。



