夕食前に入る温泉は旅館でメインの露天風呂。男女別に別れて入るから、私は自販機で買ったスポーツドリンクを伊織さんに渡した。
「なんだこれは?」
「湯あたりしないための水分補給用です。入る前は必ず飲んで、ちょくちょく水分補給してください。それから、入る前は必ず足からかけ湯をして体を慣らしてからゆっくり入ってくださいね」
普段伊織さんはお風呂と言えばシャワーで済ませてる。だから、こういうのはあまり知らないかな、と注意をしておいた。
「細かいな」
「温泉に来たのに体調不良になったら本末転倒ですよ」
心底面倒そうな顔をした伊織さんだけど、別に拒んだりしない。私は受け付け前にあるかき氷屋をチラッと見て野望をたぎらせた。
「後でかき氷を食べようかな……卓球も」
伊織さんが付き合ってくれるとは思わないけど、何となく独り言で小さく呟いた。
「なんだ、お前の希望はそれだけか?」
「そ、それだけって……あ、憧れだったんです!」
小さな頃に映画でそういうシーンを見て、温泉に入ったら卓球をするなんて。女の子ではあまりない憧れを持った。おばあちゃんには笑われたけど。
やっぱり、伊織さんも笑うのかな? 恥ずかしくなって顔を俯けたまま、チラッと彼を見たら。
伊織さんは別に笑うこともなく、ポンと頭を叩いてくれた。
「それくらい、付き合ってやる」
「ほ、ホントですか!?」
パッと顔を上げたのは我ながら現金だけど。「ああ」とぶっきらぼうな答えを返した伊織さんは、ポンと私の頭を叩いて男湯へと向かった。



