契約結婚の終わらせかた




おばあちゃんと美帆さんにはそれぞれ朝に連絡したら、どちらも「楽しんでおいで」とあっさりお休みをくれた。


伊織さんが宿泊先のお料理が食べられない時のため、プリンとサンドイッチも用意してクーラーボックスに入れておく。

後は薬と……お腹を冷やしちゃいけない伊織さんのために、ハーフケットも用意しておこう。彼の仮眠用のアイマスクも。


最難関だったのが、ミクの用意。


春に保護したミクも今やすっかり成猫と変わらない大きさに成長したけど、その分気が強くわがままな女王様へと変貌を遂げてまして。


案の定、ペット用のキャリーバッグに入れようとしたら、ドタバタと追いかけっこをしなきゃなりませんでした。


春に予防接種で動物病院に連れていかれたことをしっかり憶えてるんですよね。だから、キャリーバッグを見た瞬間猛ダッシュで逃げて狭い場所へと潜り込むし。


早めに来た鈴木さんが「私が面倒見てますから置いていっては?」と苦笑いするほどの抵抗っぷりだったのに。


「たしか、ヤナでは天然の鮎が食べ放題だったな」


伊織さんが発したひと言に、ミクの瞳がキラリと光って。決定的だったのは次の言葉。


「温泉宿でも海の幸がたくさん出るらしいが、俺は食べられない。まぐろにサーモンにハマチ……余ったぶんはどうしようか?」


サササッ!


現金なことに伊織さんの刺身発言を聞いたミクは、さっさとキャリーバッグに入って“早く行け”と言わんばかりに「にゃお」と鳴いた。