「太郎や花子と一緒なら行く」
「……」
夜。仕事から帰ってきた伊織さんに思い切って温泉旅行を提案したら、彼の第一声がそれでした。
……金魚最優先ですか。
一応、人間としては納得できないけど。きっかけは何であれ、彼が珍しく乗り気になったならいいか。
「ペットOKの旅館やホテルを捜しておきますね」
「家主に失礼なヤツは連れていかなくていい……うぐっ」
ドスッ
伊織さんがのけ者にしようとした本猫が、彼の肩にダイビングした上に乗っかったままくつろいでます。
ちなみに、ただ今のミクの体重……4kg也。
その重みに耐えながら意地でも経済新聞を読む伊織さんも、相当な根性がありますよね。
「……猫もOKなところ捜しますね」
私が雑誌を捲って適当に当たりをつけている間、伊織さんはスマホで葛西さんに連絡してたみたいで。明日から2日間のお休みをもぎ取ってた。
ついでに、伊織さんのスマホで旅行サイトを参考にしながら宿を選び、そこから明日の宿泊を予約する。急な話なのに便利な時代だなぁって感心した。
「金魚もOKな宿だ」
と伊織さんは上機嫌でおっしゃってましたが……
そんな宿があるって初めて知りましたよ。
でも、伊織さんと初めての旅行。きっと最初で最後だろうけど、嬉しくてなかなか眠りに就けなかった。
(どうしよう……嬉し過ぎて泣きたくなる)
好きなひととこんなことができるなんて。きっといい思い出にしよう、と思いながら明け方に少しだけ微睡んだ。



