「おばあちゃん、紅葉狩りついでに温泉いかない?」
私は雑誌の特集ページを開きながら、おばあちゃんを温泉に誘おうとした。
考えてみれば、おばあちゃんは旅行なんてほとんどしたことがない。おはる屋を守るのに必死で、若くに親を亡くしてからは結婚もせずに一人でお店を切り盛りしてきたんだ。
私を拾ってからはそれこそお店を休むことなくやって、懸命に育ててくれた。だから、親孝行のつもりで誘ったんだけど。
おばあちゃんは特集ページをチラリと見たけど、フン! と鼻を鳴らした。
「そんなヒマはないよ」
「時間なら……私がお店を見てるから。伊織さんと」
「バカかい、おまえは」
おばあちゃんはあきれ顔でパシン! と手を叩いてきた。
「わしだって新婚旅行の邪魔をするほど図太いつもりはないよ」
「えっ?」
新婚旅行? 何のことだろう、と首を捻ると。おばあちゃんにため息をつかれた。
「あんたとバカ婿だよ。まだ旅行行ったことがないだろ。いい機会だ。泊まりで行ってくるんだよ」
「伊織さんと私が……?」
新婚旅行?
そんなつもりはまったくなかっただけに。意味を理解した瞬間、沸騰しそうなほど顔が熱くなった。



