契約結婚の終わらせかた




「は?」

「は、じゃない。こんな場所まで追いかけたんだ。目的はただ謝るだけじゃないだろう」


体を起こした伊織さんは私の色無地に触れると、泥を払うようにそっと擦る。


「おまえの今の収入じゃあ、このクラスの着物は買えないはずだ。誰にもらった?」

「……それは」


答えて良いのかわからない。伊織さんは母の葵和子さんを毛嫌いしてる。彼女の身に付けていた着物と知ったら、また激昂しないかと心配をしたけど。


「怒らない。だからちゃんと話せ」

「……」


伊織さんの傷の深さを思うと、そう言われても迷う。でも、伊織さんに嘘をつきたくないから正直に話した。


「ごめんなさい……き、葵和子さんにお借りしました」

「……」


怖くなって膝の上で手のひらを握りしめたまま、ギュッとまぶたを閉じた。


「……やはりそうか」


怒るとばかり思っていたのに、伊織さんは声を荒げることもなく静かに話した。


「で、何が望みだ?」

「え?」

「あの女の着物をそんなにぐちゃぐちゃにしてまで、必死に追いかけてきたなら。謝るだけで満足してはないはずだ。違うか?」