「お~うめぇ! 碧姉ちゃんの蒸しパン、相変わらずうめえ」
空くんはどうやら機嫌が直ったらしく、上機嫌で蒸しパンを頬張ってる。ふふ、単純で何だかかわいい。
もう一方と言えば……
横目でチラッと見てみると、男性はテーブルに載った蒸しパンを前に微動だにしない。難しい顔で見据えてる。
小腹が空いた時にレンジを使えば短時間で出来る蒸しパンは、我が家の定番おやつだけど。もしかすると、30分もかからないお菓子なんて嫌なのかな?
「あの……もしなにか食べたいものがあればリクエストしてください。今からだとあまり手の込んだものは無理ですけど」
時計を見れば、今は3時近く。バイトは7時からだから、あと4時間もない。カレーくらいなら、夕食ついでに作れるけど。そう思って、男性に声を掛けてみれば。
「……プリンだ」
「は?」
一瞬、何を言われたのか解らずに目を瞬くと、彼はゆっくりと顔を上げて私を見た。
わずかに青みがかった瞳で、睨まずまっすぐに。
「あんたがいつも作っているプリンが食べたい」
「は……はあ、わかりました」
もしかすると体調が悪くて、好きなものしか食べられないのかもしれない。そう思いながら立ち上がった私は、あ、と思い出して一階に置いてある箪笥から、男性もののシャツを取り出して彼に差し出した。
「あの、よかったら着替えてください。お湯も用意しますんで体も拭いた方がいいです」
「ああ……」
男性はようやく自分の状態に気付いたみたいで、前髪をくしゃりとかきあげた。ドキッと心臓が跳ねたのは、気のせい気のせい。そう自分に言い聞かせながら、お湯を用意して桶に入れると台所の仕切りを閉めた。



