でも……。
“けど、殻を破れば本当は人を求める飢餓感がある。だから、独りで住めばいいのに――一緒に暮らすってなるんでないの?”
美帆さんの言葉を信じるなら、伊織さんも……。
伊織さんも、独りは嫌だから。私を一緒に住まわせたの?
ただ書類上の結婚をするだけなら、一緒に住まなくてもいい。プリンだって私の作ったものを持ち帰って家で食べれば済む話。
「……やっぱり……ひとりきりは嫌……なんだよね?」
青い顔をして両手で顔を覆う彼も、体調が悪いなら心細いはず。体が弱れば心も弱るって、おばあちゃんもよく言ってた。
なら、と私は水を持ったグラスを握りしめて伊織さんの方へ歩きだす。足音が聞こえたからか、壁に寄りかかっていた伊織さんが体を起こしてこちらを見る――瞬間、素早く走り出した。
「伊織さん!」
まさかの行動に驚いたけれど、ここで逃がす訳にはいかない。かといって、着物の裾が邪魔で走りにくい。
「……仕方ない。葵和子さん、ごめんなさい!」
着物の裾を開くと、思い切ってまくりあげる。そして、そのまま草履を投げ出して足袋のまま後を追いかけた。
「伊織さん、待って!」
裾を持ち上げているとはいえ、やっぱり着物は走りにくい。それでも、万全の体調でない伊織さんに追いつくことができた。
「待って……ください!」
必死に腕を伸ばして彼のスーツの袖を掴むと、そのまま強くギュッと握りしめる。その瞬間裾を離してしまい、足が縺れて伊織さんごと前のめりに倒れた。



