契約結婚の終わらせかた






途中でお水をもらっていたら見失ったけれど、ガーデニングに向かったならだいたいの居場所は判る。


何となくこちらかな、と予想した場所へ足を進めれば。


やっぱり、伊織さんはいた。


伊織さんは体調が悪い時や怒った時、人気のない場所へ移る。それも、ぐるりと回りを囲まれ他人の目が届かないようなところへ。


たぶん、完全に一人になりたいんだと思う。本当の伊織さんは牙を剥いた野生の獣の鎧を纏ってる。自分が傷つきたくなくて。他人を寄りつかせたくないんだ。


伊織さんと過ごせば過ごすほど、時を重ねるほどに美帆さんの言葉が身に染みた。


“他人行儀を望む人間は、結局他人が怖いの。自分が傷つきたくないから、頑丈な予防線を張る。それには大抵、傷ついた過去があるからだわね”


伊織さんの傷ついた過去――それはたぶん、葵和子さんが関わってる。


おばあちゃんから聞いた葵和子さんの過去。


18という若さで30歳年上の男性の後妻に入ったけれど、それは借金のかたに無理やりという悲しいもので。彼女本人が幸せな結婚でなかったと認めてる。おはる屋で過ごした時間が一番幸せだったと言うくらいだから、彼女にとっては辛い結婚生活を強いられたんだろうな。

だからといって、葵和子さんは一人息子の伊織さんを愛してないということはない。嫌われ遠ざけられても、幸せでいればと様子を知りたがってる。


昔……何があったんだろう?


葵和子さんの話から、幼い伊織さんは動物好きで優しくやんちゃな子どもだったみたいだけど。


それがどうして。あんなにも頑なで、一切の食事が取れないような人になってしまったのか。