「お邪魔します」
葵和子さんをマンションに招くと、彼女は優雅にお辞儀をして草履を脱ぐ。きちんと履き物を揃える癖は伊織さんと一緒で、やっぱり親子なんだと微笑ましくなった。
玄関ホールに入ってすぐ左手にあるアンティーク棚。その上に洋風には似つかわしくないものを見つけた葵和子さんは、足を止めて見入ってた。
「あ、それ。伊織さんが夏祭りで掬ったんです。太郎と花子ですよ」
「まあ」
葵和子さんは金魚鉢に泳ぐ二匹を見つめながら、ふと顔をほころばせた。
「あの子はむかしと変わらず動物が好きなんですね……優しいままで安心しましたわ」
「伊織さんは動物好きなんですか?」
「ええ。幼稚園の時だったかしら……段ボールに捨てられた子犬を拾ってきて。黒いオスに太郎、白いメスに花子って名付けてかわいがってたの」
ふふ、と微笑む葵和子さんは、母親そのものの優しい顔をしてる。そんな思い出がスラスラ出てくるのなら、どうしてこんなにもすれ違ってしまったのだろう?
本当なら客間かリビングにお招きするのがベターだろうけど、普段の伊織さんを少しでも感じて欲しくてダイニングルームにお通しする。
伊織さんの私室までは勝手に入れられないから、家では私室の次によく過ごすここが最適だと考えて。
案の定リビングテーブルではミクが伊織さんの椅子にデンと居座り、苦笑いした私は鈴木さんに来客のお茶を頼んだ。



