契約結婚の終わらせかた




こんなことをしたら絶対に伊織さんは怒るし、嫌がるだろうな。それくらい鈍い私にも解る。


直に会ってなんて図々しいお願いはとても私から言えない。彼は絶対に承諾しないだろう。私が離婚を条件にしても。


それくらい伊織さんは親や家族の事には一切触れない。以前一度訊いただけで逆鱗に触れ、頑なになって半月は口をきいてくれなかった。それくらい伊織さんにとってデリケートな問題。


だけど、やっぱり。葵和子さんは彼の実のお母さんなんだ。

私は自分の親を知らないし、今生きているのかどうかすら知らない。捨て子だからといっていじめられたり、寂しい思いやコンプレックスだってあった。


もしもお母さんがいたら優しく抱きしめてくれただろうか? お父さんがいたら、いじめッ子を叱りつけてくれただろうか?


寂しさはおばあちゃんが埋めてくれたけど、やっぱりお母さんとお父さんという存在は特別だった。


許せない気持ちももちろんある。なぜ、自分を捨てたのかと。でも、たとえ会えなくても見守ってくれていたら。それだけできっと心強い。


伊織さんも葵和子さんも、まだ生きてる。


親の生死すらわからない私からすれば、2人が私を通じて距離を縮めていき、いつか一度でも逢えればいいと思う。


余計なお節介かもしれない。


けど、伊織さんが家族のトラウマを抱えてるうちは、本当に幸せになれない気がして。それを克服するために、少しでも手伝いたい気持ちがあった。