「和泉……え、それって」
困惑する私を前に、葵和子さんはアイスコーヒーのグラスを両手で包む。水滴がついたグラスの表明を見たまま、彼女はそっと口を開いた。
「……お察しの通り、わたくしは伊織の母です」
「あ……」
あまりに唐突な伊織さんの家族との出会いに、とっさには行動ができない。何とか動いた頭で考えたのは、とにかく挨拶しなきゃということだった。
「は、はじめまして! 私は和泉 碧と申します。おはる屋で働いてます」
椅子から立ち上がり、葵和子さんに向けて頭を下げた。
「こんな不意打ちで申し訳ありませんが……あの子は決してわたくしと会おうとしないでしょう。ですから、一度あなたとお会いして様子を窺いたかっただけなのです」
寂しそうに笑う葵和子さんは、どこか諦めた様子を窺わせた。念のために何年会ってないか訊いてみれば。
「直に会い会話を交わしたことを“会った”と言うならば、もう15年近くなりますわ」
「じゅ……15年も伊織さんとお会いしてないのですか!?」
予想以上の断絶っぷりに、絶句して何も言えなかった。



