どうしてだろう?
伊織さんを思い出した途端、目の前の女性と彼の姿が被る。
程なくオーダーした品が運ばれてきて、それぞれ砂糖やミルクを入れてかき混ぜる。
カラカラと氷とグラスがぶつかる軽やかな音が耳に響いた。
「急にお誘いしてごめんなさい、でも。どうしてもお話をしたかったのです」
「はあ……」
初対面の女性にそう言われても、こちらとしては曖昧に頷くしかない。見覚えなんてないし、どう対応したらいいのか。
女性はアイスコーヒーを一口だけ口にする。なぜか、これから喋るために喉を潤しているように見えた。
「もしかすると……あなたは静子さんのお孫さんでらっしゃる? 和田町にある“おはる屋”の静子さん」
女性から意外な言葉が出てきたから、驚いて彼女の顔を見ると。彼女はどこか懐かしそうな目で私を見てた。
「おばあちゃんをご存知なんですか?」
「……ええ、かなり昔にお世話になったことがあるの」
女性は昔を思い出したのか、口元が嬉しそうに弧を描く。凛とした空気が柔らかく、あたたかなものへと変わった。
「わたくしが結婚する前……静子さんとは何度かお会いしました。今までで一番幸せな時間を過ごせたのですよ」
あ、と女性は遠くにやった視線を戻し、ごめんなさいねと謝ってきた。
「まだ名乗らなくてごめんなさい。わたくしは、桂 葵和子(かつら きわこ)と申しますの」
そして、と彼女は継ぎ足す。
「わたくしの旧姓は、和泉(いずみ)とも申します」



