後ろからお腹に腕が回されたかと思えば、ギュッと体が引き寄せられる。そして、肩に重みが――伊織さんの顎が載ったのを知ってピシッと固まった。
「悪いが、俺の前でひとのフィアンセを口説かないでくれるか?」
「ふ、フィアンセ!?」
突然の伊織さんの発言に、空くんもすっとんきょうな声を上げた。
というか……
私も何もかもが突然過ぎて、頭がついていけずに思考停止してます。
「……そういえば、思い出した! あんた、たしか春頃におはる屋で失礼なことしてた男だろ。なんで碧姉ちゃんのフィアンセなんて嘘をつくんだよ」
空くんも記憶力が良いのか、伊織さんに噛みついた。確かに、伊織さんの発言はある意味嘘だ。婚約者じゃなくって既に結婚してるんだから。
だけど、そんなことを空くんに知られたくはないんだよね。1年の短い結婚を約束した契約のみの仲だなんて。
だから、私は伊織さんの言葉に合わせることにした。たぶんこれが一番いい。2人が一緒にいて不自然じゃない理由として。
「う、うん……そうなの。黙っててごめんね。私伊織さんと婚約したんだ」
本当はキスすらない仮初めだけど、と少し自虐的になって頷いた。
わなわな震えてた空くんだけど、しばらくして何故かため息を着くと、キッと伊織さんを睨み付けた。
「……とりあえずは、わかった。けど、オレは認めないからな。それに、どう見ても年の差がありすぎるだろ。オレも付け入る隙はあると思ってっから」
何故か、拳を握りしめながらそんな宣言をしてきたけど。付け入る隙ってなんのことだろう?



