契約結婚の終わらせかた




今はモスグリーンのお洒落な制服に身を包む彼も、泣き虫だった子ども時代から知ってる。サッカーが好きで、それ以外はさっぱり無関心なのは相変わらずらしい。


「ってのはウソウソ! 心愛から聞いたんだ、碧姉ちゃんがプリン作ったって。それが食いたくて早く来たんだ」


空くんがニコッと笑うと、幼い頃と変わらない可愛い笑顔になる。そんなに楽しみにしたなら仕方ないなあ、と私は腰を上げた。


「それじゃあ持ってくるから、ちょっとだけお店お願い」

「やった! うんうん、任されちゃうよ」


勢いよく頭を振った空くんは、ウキウキしながら適当な雑誌を広げる。後で買ってもらおうかな、と目論みながら、ついでにあの男性の様子も見ようかとガラス戸をゆっくりと開く。


(空くんに見られて変な噂になったらあのひとに申し訳ないもんね)


ちらっとガラス戸越しに店を見れば、空くんは芸能雑誌に見入ってる。ホッとしながら素早く戸を閉めて、さあと部屋に目を向けて――あ然とした。


いつの間にか、男性が目覚めてた。それはいい。


彼がものすごい整った顔立ちだったとか。何だか厳めしい顔をしてにらまれていたとか。全然状況がわからなかったけど。


もっと、わからなかったことは――


彼が座る布団の辺りで、プリンが入ってたはずのガラス容器が散乱してたこと。


昨日はおばあちゃんと私と、それから子ども三人が食べて。残った5つがいつの間にか彼の手により空になったらしい。