「あ、碧姉ちゃん!」
「は、はいっ?」
後ろから突然呼ばれたせいで、ついびっくりしてしまいました。だって、なんでいきなり茂みから出てくるの!?
私を呼んだのは空くんで、彼はやたらと周りを見回してる。ホッと息を吐いた後、やっと茂みから抜け出した。
「どうしたの? そんな場所から出て」
「ちょっとね。食いついて放さないすっぽんから逃げてきただけ」
額の汗を手のひらでぬぐった空くんは、私を見下ろすと何故か顔を赤らめる。なにかおかしかったかな? と自分の浴衣を見下ろした。
紺色の生地に金魚をあしらったベーシックなデザインに、赤い朝顔柄の帯を合わせたんだけど。男の子からすれば、浴衣に着られてる感が半端ないとか?
「ご、ごめん……太ってるのに浴衣なんて見苦しいよね。なにチョーシこいてんの、コイツって思うでしょ」
「ち、違うよ!」
空くんは顔を上げて私を見たけど、また顔を伏せてあ~とかう~とか唸ってる。
「違うよ……あ、碧姉ちゃん……す、すごく似合ってる。か、か……かわいいし! うん!!」
空くんは勢いよく頷きながら独り言のように呟くと、そのまま顔を手で覆い隠す。耳まで真っ赤になった彼を見て、私まで頬が熱くなった。
かわいいって……似合ってるって空くんが言ってくれた。
生まれて初めて異性から褒められて、嬉しくないはずがない。
私は、何とか「ありがとう」とだけ伝えると、猛烈に恥ずかしくなって下駄を履く足元に目を落とした。



