腰を折って頭を下げた私に、女性の顔はわからない。彼女がどんな表情をしてるのか怖くて見れなかったけど。
彼女は、はぁ……と呆れたようなため息を出した。
「こんなのが伊織さんの妻だなんて……何をトチ狂ったのかとしか言い様がないわ」
「はい、私もそう思います」
彼女の言うことはいちいちもっともだから、頭を下げたまま肯定すれば。もう一度呆れたようなため息を吐かれた。
「バカらしくなってきた……頭を上げて」
許されて恐る恐る顔を上げると、彼女は髪をかきあげて私をジッと見る。
「自己紹介がまだだったわね。私は中村 あずさ。伊織さんの本家が認める婚約者よ」
「えっ……」
彼女の……あずささんの話に、私は驚く他ない。
だって。周りが認める婚約者がいるのに、どうして伊織さんは私と結婚したのか。
「と言ってもあくまで本人以外が強引に決めたことで、伊織さんは私を認めたことなど一度もないけれど」
あずささんは伏し目がちに話した。
「会った当初から冷たくて無関心だったわ。それでも私は好きになったから、彼を追いかけて同じ大学に入って伊織さん達が作った会社に2年遅れで入社したわ。それから10年……努力して、何とか仕事のパートナーとしては認められるようになったの」
だけど、と彼女は寂しそうに笑う。
「彼は私生活では全く変わってくれなかった。いくら食事に誘っても応じないし……私を異性として見てくれたことなんて一度もないの」



