『俺はもう濡れてるから今更濡れたって平気』
『駄目です!風邪引いちゃったらどうするんですか?私、家すぐそこなんです。だから、これどうぞ』
そう言って、彼女は強引に俺に傘を持たせる。
『え?ちょっと、どうぞって?』
『使って下さい。私は走ります!家に帰ったらすぐお風呂に入って下さいね!』
『じゃ、私はこれで!』と最後に手を上げて、彼女は土砂降りの雨の中、傘を飛び出し走って行ってしまった。
ぽつんと、その場に佇む俺。
何なんだよ……
『……ふっ』
プルプルと足を震わせながら、必死に限界まで背伸びをして俺を拭いてくれる姿を思い出して、つい笑みが漏れる。
見ず知らずの人の為に凄い心配して、必死になって。
不思議な子だよ、マジで。
『ってか、ピンクの傘って』
明らかに女性物の傘だ。
俺、これを差して一人で歩くのか?
一緒に入って帰るっていう選択肢もあっただろうに。
そしたら彼女は自分も濡れずにすんだはずだ。
傘の持ち手を見る。
『春川セイラ…』
ご丁寧にフルネームが書いてある。
確か学校は中津川女子か。

