それは、ある春の日の午後。



「あらまあ、(りん)くん! 久しぶりねえ」


「ご無沙汰してます。 無事、就職も決まったので、ごあいさつに伺いました」


「またかっこよくなったわね〜! ほら、上がって上がって!」



マンションなんて部屋がわかれていないも同然。


玄関の会話は、あたしの部屋に筒抜けだ。


あたしは雑誌から顔を上げて、ベッドに横になったまま足音に耳を澄ます。



突然、彼と再会するのは心臓に悪い。


いないふりでもしようか……。



「あ、日葵(ひまり)にも声かけてやってね」


「はい。 そのつもりです」



と、思ったのにお母さんが言っちゃうからもうダメ。



来る。


あたしは咄嗟に、雑誌に視線を戻した。



だって、緊張しちゃうんだもん。


顔を合わせるのは、1年ぶりだし。



……あたしの初恋の人、だし。



「ひま」