都立明鏡止水高等学校、ミステリー研究部の部室で――
「どう? この都市伝説、かなりうまく出来たと思うんだけどなぁ……」
 パソコンに文字を打ちこみ終えた一人の部員が、得意気に声を出していた。
 彼が授業終了後、部室に駆け付けてきてから、都市伝説創作に要した時間は、一時間ほどといったところだろうか。
 あまりにも自信満々に言うので、もうひとりの部員も興味を示したらしい。鉛筆を器用に回しながら、画面を覗きこむと、「そうだなぁ」と評論家のような口ぶりで語りはじめた。
「怖さはあるけどよ。他の都市伝説にはない設定とかもほしいよな……」
 ミステリー研究部の部員は五名。本来は都市伝説づくりという妙な活動はしていない。
 推理小説の舞台に出掛けたり、トリックの検証をしたり、事件が起きればプロファイリングで犯人の予想やエトセトラを考えたり……と、知的な活動をしている。
 そんな都市伝説創作に熱中する二人の部員を横目で見ながら、アホなことやってるな――と、ミス研部長、東海林十一朗は推理小説片手に思っていた。
 しかし、悲しいことに、望まなくとも同意を求められる立場が部長だったりするのである。
「プラマイ! どう思う?」
 聞かれて十一朗は顔を上げた。ちなみにプラマイは十一朗の名前を文字った渾名だ。そして、十一朗はこの渾名を気に入っている。
 画面には語り口調で書いてある都市伝説があった。
『これは、私が友人から聞いた話をもとに実行し、その最中に体験したことです』という始まりだ。
 真っ暗にした風呂の湯船に体を付けてから、「お母さん助けて――」と三回言ってください。これを十三日間繰り返します。すると十三日目、あなたの足を引っ張る感触があるはずです。
 それが我が子を溺死で失って彷徨(さまよ)い続ける霊、「カヨ」さんです。カヨさんに右足を掴まれたら、「助けて」という願いどおりに、あなたの悩みを払ってくれます。
 しかし、左足をつかまれてしまうと終わりです。自分の子どもの足と間違えたカヨさんは、あなたの足を引き千切ってしまいます。
 ――というもの。
 更に二人は、
『私は右足をつかまれました。それが理由なのか、絶対に無理といわれた難関校に合格できました』という嘘の実体験も付け加えていた。