恋人になろうとは、一切しなかった。
先輩はいつだって、気持ちを伝えるだけだった。
なんで今まで気づかなかったんだろう。
好きという言葉に気を取られ、気付かなかった。
「付き合って」と、一度も言われていないことに。
「それでも衣緒は、きっと夢見ていたわ。あなたと両思いになれる夢を。叶ってほしくない夢を」
叶ってほしくない夢?
「ここから先の話は、衣緒に『言うな』って言われてたんだけど。
あなたになら、衣緒は許してくれそう」
「……?」
「実はね―――」
金井さんが話した言葉は、全て耳を疑うようなものばかりで、正直理解することでいっぱいいっぱいだった。
でも、先輩のことを知れて、知らなかったことに気づけて、嬉しかった。
それと同時に、苦しくなった。



