先輩は迷惑をかけまいと、いつだって笑うんだ。
泣かずに、「大丈夫」と平気な顔をして。
そう言ったときの先輩の作り笑顔は、見抜けないんだ。
「あなたが衣緒を傷つけることは多分ないとは思うけど、お願いだから、最後まで衣緒を傷つけないでね。あなたが衣緒を泣かせないでね」
辛く震えた声で、金井さんは俺にそう呟くように言った。
どういう意味なのか、まったくわからない。
だけど、彼女が泣きそうなのはわかった。
「……はい。絶対に傷つけません」
「ありがとう。
それじゃあ、私は行くわ」
「あ、あの!」
背中を向けた金井さんを引き止めた俺。
金井さんは黙って振り返る。
「先輩に、『手紙ありがとうございました』と伝えてください」