「まあ、これくらいなら言ってもいいだろ」
ボソッと呟いた志恩の声は、あまりにも小さくて俺には聞こえなかった。
「何か言ったか?」
「いーや、別に」
いつにも増して清々しい顔つきになった志恩に、俺は眉を寄せた。
志恩の好きな人って、誰だ?
前に志恩は好きなタイプは、一途な子、って言ってたけど。
……想像つかない。
もしかして、北村先輩?
――なわけないか。
急に志恩が先輩のことを「衣緒さん」と呼ぶからもしかして……と思ったが、すぐにその予想は頭から消した。
無意識に、そんなはずはない、と。
理由を考えれば、思いつかない。
だけど、志恩が先輩のことを好きになるわけない、と思い込んでしまったんだ。



