「そうなんですか。わかりました。」

ホールの近くのホテルは満室だった。
どうやら、昨日と今日はこのあたりで祭りがあって、それを見に来た観光客でいっぱいのようだった。



気を取り直して、そこから十分程歩いたホテルに行ったものの、そこも満室。
どうやらそこは外国からの団体客が泊まってるらしかった。



「これは困りました。
今夜は野宿なんてことにはならないでしょうね? 」

「まさか、そんな…」

そんな冗談を交わしながら、私達はさらにまた少し離れたホテルを訪ねた。



「ツインルームなら一部屋だけございますが…」

「そうですか。……ではまた…」

「待ってください。それでけっこうです。」

フロントを離れかけた照之さんを無視して、私はそう言った。



「紗代さん…?」

「このあたりにはホテルはもうありませんし、移動したとしても、そこに空きがあるとは限りません。
ここにしましょう。
野宿よりはマシですよ。」

「ですが……」

「早く決めないと、お客さんが来たら取られちゃいますよ。ね?」

私は半ば強引に押しきった。

部屋は割りと手狭なツインルームだった。
特に夜景が綺麗だとか、ムードなんてものもなく、ベッドの距離も近いから気恥ずかしい。



「えっと…今日のバレエは本当にすごかったですね。」

レストランでもさんざん話したことを私はまた話した。
まるで、とってつけたようなぎこちない会話…



「そうですね。素晴らしかったです。」

照之さんの返事もなんとなくぎこちない。
それもきっとこの閉ざされた狭い空間のせいだろう。



「あ、照之さん…そろそろ眠くなったんじゃないですか?
早くお風呂に入って休んで下さい。」

「はい。では、先にシャワーを使わせていただきますね。」



照之さんが、バスルームに入ってからようやく気分がほっとした。
でも、お風呂に入ったら、素顔を晒すことになるし、かといって入らないのも気持ち悪いし…



やっぱり、もっとホテルを探せば良かったかと少し後悔した。