横顔の君

「お待たせしました。」

「紗代さん…あれ…」

照之さんが指差したのは柱の時計。



「えっ!?」

私はそれを見て、思わず自分の目を疑った。
時計の針は10時05分を示していたからだ。



「……もうこんな時間…」

確かに開演時間は少しだけ押した。
それに、二部構成だったから思ってたよりも上演時間は長かった。
だけど、素晴らしい内容だったから、時間のことなんてまったく気にならなかったのだけど、いつの間にかもうこんなに時間が経っていたなんて…



「僕もさっき気付いてびっくりしました。
……仕方ありません。タクシーを使いましょう。」

「そ、そんな…ここからタクシーに乗ったら、一体いくらかかるか…」

「しかし、列車はもうありません。
本当にすみません。
時間を確かめなかった僕のミスです。」

「違います。私がお待たせしたから…」

「いえ、僕のせいです。」

首を振る照之さんの顔は元気がない。



「照之さん…今夜はどこかに泊まりましょう?」

「でも…」

「大丈夫です。母にはちゃんと連絡しますから。」

「でしたら、僕からお電話しましょうか?」

「い、いえ、母にはまだお付き合いしてることを話してませんから…」

また嘘を吐いてしまった。
でも、こんなことで電話してもらうのはなんだか恥ずかしかったから…



私は今夜は泊まることを母に連絡した。
今日は照之さんと出掛けると言って出てきたから、誤解されそうでちょっと気まずかったけど仕方がない。



「母には連絡してきました。」

「そうですか。それじゃあ…まずは何か食べましょうか?
お腹が減りましたね。」

「ええ、ぺこぺこです。」

私達は近くのレストランで食事をした。
昼から何も食べてなかったし、観光でけっこううろうろしたせいか、本当にお腹が減っていた。
バレエのことを話しながら楽しく食事を終え、それから、私達は、今夜泊まるホテルを探しに出かけた。