横顔の君




「わぁ、おいしそうだなぁ…!」

そんなにたいしたものを作ったわけじゃないのに、照之さんは大げさすぎる程喜んでくれた。



お総菜っぽい和食が良いってことだったから、定番の肉じゃがとほうれん草のおひたし、だし巻き卵、そして、魚を焼いて、お味噌汁を作っただけなのに、えらく感動してくれて、気恥ずかしい程だった。



「紗代さんは、本当にお料理がお上手ですね。
あぁ、このお味噌汁なんて最高だ。
だしが良く利いてる。」

「そ、そうですか?」

インスタントのだしの素を使ったことが言い出せなくなってしまった。



うちではそんなに気合い入れて作ってるわけじゃないから、それで良いと思ってたけど、今度からはだしも本格的に作ってみようかと、私の料理魂に火が付いた。



「これもうまい!
じゃがいもはやわらかいし、良い味だ。
紗代さん、ふだんからお料理されてるんですね。」

「一応、母と一緒に作ってますが、そんなにたいしたものは作ってないんですよ。」

それは本当のことだった。
手の込んだものなんてめったに作らない。
毎日のことだし、母も私も働いてるから、手軽に出来るものばかりになってしまってる。



「またまた…ご謙遜を…
普段から作られてなかったら、こんなに手際よくおいしくは作れないはずですよ。」

照之さん…ほめ過ぎです。
誉められるのは嬉しいけど、本当にそんなたいしたもんじゃないから、くすぐったい。



でも…差し向かいで食べる食事は、まるで新婚の所帯みたいで、悪い気はしなかった。
こんなに誉めてくれる旦那さんだったら、妻のやる気は俄然上がって、本当に料理上手になれそうだ。



「……さん…紗代さん!」

「え?」

「どうかしたんですか?
急に固まって……」

「え?あ?す、すみません。
ちょっと考え事をしていて…」

「考え事?」

「あ、あの…お母さんももうご飯食べたかなぁ?なんて…」

私が咄嗟にそんな嘘を話すと、照之さんが優しい顔で微笑んだ。



「紗代さんは本当にお優しいんですね。
でも、お母様には悪いことをしてしまいましたね。
急にこんなことお願いして悪かったですね。」

「い、いえ、そんなことありません。
お母さんもけっこう良く出かけますし、お互い自由にやってるんですよ。」

「そうなんですか…」