「お互いにそんな気持ちだったんですね。
その二人が今こうしているなんて…
なんだか不思議ですね。
そういえば、僕達の縁は本が結んでくれたんですね。
あなたが、本好きじゃなかったら、きっと店には来られなかったし、そしたら、僕達は出会うことさえなかった…」

「そ、そうですね…」

照之さんが話したことに間違いはない。
だけど、照之さんの真剣な横顔に一目惚れしたことは、まだ話してない。



「あ、その前に妹さんのご結婚がありましたね。
妹さんがご結婚されて家を出られたから、あなたはこの町に戻って来られたんですもんね。
それがなければ、僕達はますます会えることがなかったわけですね。」

「は、はぁ、まぁ、そうですね。」

本当は会社でのいじめがあったから、こっちに逃げて来たんだってことはまた言えなかった。



やっぱり私は変わってない。
見栄っ張りでずるい嘘吐きだ。
照之さんは、そんなことに少しも気付いていない。



「それで…あなたを裏切ったお二人はまだこの町に?」

「いえ…二人は結婚してこの町を離れたそうです。」

「そうなんですか…それは良かったですね。
でも、もう気にしない方が良いですよ。
人を裏切るような人は、いつか自分もそういう目に遭うものです。
もうあなたには関係のない人達だ。」

「……はい。」



その通りだ。
もうあの二人は私には関係のない人達だ。



結婚式の招待状だって来なかった。
そんなもの、出せるはずがない。
それに、万一、来てたって行くはずもないけど…



そんなことを考えるだけで、頭に血が上るのを感じた。
あんな昔のことを、私はいまだに根に持ってるんだ。
自分の執念深さに、嫌な気がした。



「僕は、あなたを裏切るようなことだけはしませんから、それは信じて下さいね。」

「はい、信じます。
照之さんは人を裏切るような人じゃないって思います。」

「どうしてですか?」

「そんなこと…付き合っていたらわかりますよ。」

「ありがとう。」

照之さんは照れくさそうに笑った。