横顔の君





「紗代さん!」



仕事帰り、照之さんの鏡花堂を避けて通っていた細い路地で、照之さんに出くわした。



「退いて下さい!」

「待って!紗代さん!
少しだけ話がしたいんだ!」

「話すことなんてありません!
退いて下さい!」

「少しで良いんです!」

「いや…ああっ!」



いきなり照之さんが自転車の前に飛び出した。
その衝撃で、私はあやうく倒れるところをなんとか足をついて転ばなかったけど、照之さんは後ろ向きに転び、頭を押さえた。



「血…血が……!」

道路には赤い血がこびりつき、頭に触れた照之さんの手も赤く染まった。



「大丈夫です。
たいしたことがありません。
それより、紗代さんは大丈夫でしたか?」



びっくりしたのと、その優しい言葉に涙が溢れた。
どうして…
私は何か月も照之さんから逃げて、着信拒否までして、しかも、自転車ではね飛ばしてしまったっていうのに、自分のことより私のことを心配してくれて…



「照之さん…病院に行きましょう。」

「大丈夫ですよ。
ちょっと打った時に切れただけです。」

「そんなこと言わないで。
なにかあったら大変です。
私ついていきますから。」

「……じゃあ、話をしてくれるんですか?」

「はい。」



照之さんをこのままにはしておけない。
私は、今までのわだかまりもなにもかも忘れて、照之さんを病院に連れて行った。