横顔の君





「あら?目、どうかしたの?」

「う、うん…昨夜、読んだ本がむちゃくちゃ感動的で…」

「相変わらず、本ばっかり読んでるのね。
そういえば、本好きの彼とはいつ会わせてくれるの?」

「うん…もうすぐ…かな。」



本当のことが言えなかった…
もうお母さんに照之さんを紹介することなんてないってわかっていながら、私は嘘を吐いていた。



「もうすぐって、えらく待たせるわね。
どうかしたの?
何かあった?」

「……そうじゃないの。
私が恥ずかしいから……
まぁ、そんなに焦らないでよ。」

「はいはい、わかりました。
あ、今日も彼と出かけるんでしょ?」

「それが、今日はなにか用があるらしくって…」

「それじゃあ、久しぶりに一緒に出掛ける?」

「そう…ね。うん、そうしようか。」



出掛けるような気分じゃなかった。
だけど、行かないとお母さんに何か疑われるような気がして…
それで、乗り気じゃなかったけど、出掛けることにした。



考えてみれば、きっとその方が良かったんだと思う。
鬱々とした気持ちを抱えて、一人で暗くなってるよりも、外に出掛けて発散した方が良い。



そう思って、母と出かけた隣町……
だけど、元気なんて少しも出なかった。
半額のパジャマをみつけてはしゃぐお母さんに、愛想笑いを浮かべるのが精一杯だった。



家に帰ってしばらくすると、スマホに着信があった。
画面には「隠岐照之」の文字…
いつもなら、胸が躍ったものだけど、もちろん、今はもう話す気なんてない。
私は、枕の下にスマホを押し込んだ。



しばらくすると、着信音は鳴りやんだ。



何とも言えない後味の悪さ…



だけど、どうすることも出来ない…