横顔の君





「ちょっと、コンビニに行って来るね!」

私は次の土曜日の夜、あのバーの近くに出かけた。
ちょうどあの時と同じくらいの時間に…



あれは私の見間違い…
だから、照之さんがいるはずなんてない。
そう思いながらも、心のどこかが落ち着かない。
店の周りをしばらくうろうろして、それらしき人を見かけなかったことにほっと安心して、家路に着いた。
その次の日も同じように待ったけど、やっぱり怖れていた出来事は起きなくて…
あぁ、良かったと胸を撫で下ろした。



念のためその次の週も、同じように見に行ったけど、やっぱり照之さんはいなくて…
そうだ、やっぱりあれは私の見間違いだっていう想いが強くなった。



そしてまた次の週…
さすがにもうやめようかと思ったけど、たまたま食パンを買い忘れていたこともあり、私はコンビニに行ったついでに、あのバーの傍に向かった。



相変わらず、カップルが多い通りをひとりでぼんやりと歩く…



そうだ…来週あたり、照之さんは家に招待しようかな…
いいかげん、お母さんに会ってもらおう…



そんなことを考えている時のことだった。



(……嘘……)



目の前の出来事が、信じられなかった。
店に向かって歩いて来る数人の男女…
その中でひときわ目立つ長身の男性…それは照之さんだった。
ブランド物のスーツに身を包み、綺麗にセットされた髪…
いつも私に見せる顔とは違い、華やかで自信に溢れた男性的な表情…



そして、彼の隣には、先日のスタイルの良い女の人が寄り添っていて……



私は物陰に隠れたまま、動けないでいた。



その間に、明るい笑い声を残して、彼らはあのバーに入って行った。



今度は見間違いじゃない。
こんなに明るいし、私はお酒も飲んでない…



そう…あれは紛れもなく照之さんだった…



私は、まだ騙されたんだ……