横顔の君





「本当にごめんね。」

「ううん、私の方こそごめん。
一晩寝たら元気になるから心配しないで。」

「なんかあったらすぐに起こしてね。
じゃあ、おやすみ。」

「おやすみ。」

あまりのショックで、まともに話も出来そうになかったので、私は具合の悪いふりをして、まどかには妹の部屋を使ってもらった。



さっきのシーンが頭の中に繰り返され、その時に胸がぎゅっと締め付けられる。



(どうして、照之さんがあんなところに…)



胸が熱くなって、涙が込み上げた。
さらに、悪いことに、いやな記憶をも思い起こされた。



『紗代だって気付いてたんだろ?』



別れ話を切り出された時、彼は笑いながらそう言った。



『俺、隠し事出来ない性質だし…トモだって…』



私は何も気付いていなかった。
馬鹿みたいに二人を信じてた。
彼に愛されてるって…
トモは親友だって…



私はずっと裏切られててたのに、少しも異変に気付けなかった。



また今度もそうだってこと?
照之さんは以前からずっとあんなことをしてたのに、私は何も気付いてなかっただけ?



早寝だって言ってたのも、夜、あんなふうに羽根を伸ばすため?
服のセンスがわからないとか、そういうのも全部嘘だったってこと?



でも、どうして?
どうして、そんなことをするんだろう?
あんな綺麗な恋人がいるなら、私なんかと付き合うことなんてないのに…
もしかしたら、私のことはゲームみたいなもの?
気紛れに、普通の女の子をひっかけてみただけなの?



その時…真剣に本を読む照之さんの横顔が脳裏をかすめた。



そう…私が一目惚れしたあの横顔だ…



あの横顔に、嘘は感じられなかった。
欠片程も……



でも、それは、私に見る目がないからなの…?