病院への通院履歴なし。
なぜだ?普通失声症じゃあ、カウンセリングを受けに病院へ通院させるだろう。
「やっぱり問題は、継父母みたいだね。」
そう正樹が言うと、総一郎は「だからだよ。」と言った。
「どういうこと?」
徹が聞くと総一郎は丁寧に説明をし始めた。
「今の保護者をむやみに病室に入れてしまえば、病室という場所が彼女の認識の中で、安心できる場所にはならなくなってしむう。
とにかく今は安全で安心できる場所で、リラックスした状態になってもらうことが第一段階だ。
そして第二段階で、俺たちがどれだけこの子を守りたいと思ってるってことを知ってもらうことが重要だ。
そうすれば少しは心を開いてくれる可能性もでてくる。
そのかわりこの診察室は、毎回保護者と会う場所になる。よって彼女にとってはここは最悪な場所になるだろうな。」
総一郎はそう言うとあみの点滴を確認して、脈をとった。
「あとは目を覚ませばもう大丈夫だろう。ただ保護者がくるまでは目を覚まさない方が良さそうだけどな。」
俺はあみを見た。
さっきからまったく起きる様子がない。
「いつ目を覚ます?」
総一郎はため息をついて、
「あとは彼女しだいだからね。今はゆっくり休ませてあげな。」
と言って椅子に座った。
プルルル、プルルルル。
「はい、飯田です。」
診察室の電話に出ると総一郎の眉間にシワが寄った。
「とりあえず診察室にお連れして。あとは俺が説明する。」
電話からもれてくる声から、相手は看護師だろう。
「うん。大丈夫、君のせいじゃない。一筋縄でいかないことはわかっていたから。うん、頼んだよ。」
そう言って電話を切った。
「どうやら嵐になりそうだ。」
やれやれと首をふる総一郎。
「彼女の保護者か?」
総一郎は龍矢の言葉に頷く。
「入院はさせないと言ってるらしい。
とりあえずお前らはいるとややこしくなりそうだから、外で待ってろ。
なにか聞こえてきてもたえろよ。
絶対おれが入院までもってくから。」

