幸せの先


そこからの全員の情報把握は早かった。

急いで知り合いの医者に電話をかけ始める陸斗と、車の手配をする正樹。

俺は徹が机をどかしている間あみを抱きかかえ、床に寝かせた。

もうすぐ夏だっていうのに、なんでこいつの手はこんない冷たいんだって思うくらい、あみの手も体も冷えていた。

俺は急いで学ランをあみの体に巻いて、もう一度抱きかかえるようにしてあみをあっためた。


「賢一、あみちゃんの様子は?」


「呼吸が浅い。」


そう聞いてきた徹に、顔を見ずに答えた。

徹が3人の方を見てなにやらアイコンタクトで伝えると、龍矢は陸斗と話してから、教室からいそいで出て行った。


「賢一、あと5分で車が来る。」


そう言ってケータイを耳から話した正樹にうなずくと、正樹はまたどこかに電話し始めた。


「賢一、あみちゃんにこれ付けて。」


手に酸素マスクを持って帰ってきた龍矢。


「悪い。」


そういうと、龍矢は「謝るところじゃないよ。」と言って苦笑いした。

その間に徹は龍矢から酸素マスクを受け取り、あみに装着していた。


情けねえ。


普段の俺だったらこんな事で動揺なんて絶対にしない。

それだけ、こいつが俺にとって特別になっている。

これも本能で、こいつを守らなかった後悔すると全身が訴えている。